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 2011年07月 

つむじが似ていた 

  • [2011/07/12 23:58]

先週の金曜日に大阪に行ってきたのである。
目的は桜オケツお嬢と映画デートをするのと、花房観音のイベント。

8日、朝の8:00に大阪のなんばに着き、天王寺に住んでいる友人と湊町の喫茶店でモーニング。出勤前にちょっとだけ付き合ってくれた友人は9時前に難波駅で別れた。
桜お嬢とは9時半になんばパークスで待ち合わせることになっていて、途中TOHOシネマズと勘違いしたりとかなり迷いながら、どうにかこうにか時間ぴったりに映画館のある8Fにたどり着く。
すぐにフロアを探しまわったがまだ桜お嬢は来ていないようだった。確かにここはなんば駅からも奥まっていて地元の人も迷いそうな場所にある。

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桜ちゃんに電話するとちょうど今、エレベーターに乗ったところだという。
エレベーター付近で待機。すると扉から降りてとっとと映画館の方に向かうキレイな感じの女の子が。顔ははっきりとはわからなかったが洋服の感じからきっとお嬢に違いない。ほくそ笑みながらそのあとをついていくと、急に彼女は立ち止まり、ふっとうしろを振り返る。2人の目が合う。やっばり桜ちゃんだ。むこうもすぐに気づいて、なにかまぶしそうな顔をしてから、ニコーっと笑う。こうしていんごまパピーは無事に愛しい娘と会えたのであった。

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二人で劇場版『そらのおとしもの』を鑑賞する。
軽く食事をして、日本橋界隈を歩いて回った。
どちらもオタ気味ではあるのでものすごく楽しい。自分はとうとう子ども持つことはなかったけれど、もしも娘を持てたならこんな感じなのかなぁとなんだかくすぐったいような気持ちになる。
桜ちゃんと会うのは、実際はこれがはじめてなわけだが、全然気詰まりすることなく、無理なく会話を続けられる。まるで前々から会って遊んでいたことがあるかのように、一緒にいて違和感がない。そのことがまずなによりうれしい。

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夕方いっぱいいろいろ見て回って、18時前にはイベント会場の十三へ。桜ちゃんはそこでゲストとして参加することになっている。早めの楽屋入り。

ここで花房観音のイベントとなるわけだが、イベントの内容自体は一切他言無用ということで書かない。一言でいって旦那さんの吉村智樹さんとのかけあいが「夫婦漫才」のようであった。

その夜は梅田のネカフェを宿にしようと十三を離れた。
そのまま桜お嬢と漫画を読み耽るという趣向だったが、なんせ昼間、日が照っている日本橋を歩きまわったせいでどちらも疲れている。
それでも自分は「はじめの一歩」とか読んだりしていたがお嬢はとなりで横になっていた。

朝方のこと、ふと横になっている桜お嬢を見ると、持ってきた「るろうに剣心」を読まずに目をつぶってウトウトしている。
何気なく頭の方に目をやると、彼女のつむじが見える。
思わずハッと息を呑んだ。その形が死んだカミさんのつむじにそっくり。しばしじっと見入っているうちになんだか妙な可笑しさがこみあげ、いつのまにか口元から「フフフ」と笑いがこぼれていた。

ウトウトしていた桜お嬢はこちらのおかしな様子に気づき「どうして笑っているんですか?」と尋ねてくる。しかしなんと説明していいかわからない。ただ桜お嬢の頭のてっぺんを撫でながら含み笑いが止まらずにいた。そして次にどうしようもない郷愁が心を襲ってきた。

高速バスの出発にはまだ少し早いがネカフェを出て、ファーストキッチンで朝食をとる。
気がついたら亡き妻の思い出話ばかり。桜お嬢を相手に次から次へとエピソードが出てくる。他人にこんなにも多くのことを語ったのははじめてだ。
考えてみれば東京を出る直前、お嬢とは電話でカミさんとの馴れ初めを話していた。デート中もちょこちょこ話したりしていたかもしれない。つまりお膳立てはできていたのである。

なぜ桜ちゃんなのだろう?
本当に自分の娘だと錯覚して、亡きママの思い出話を語って聞かせたい気分になっていたのか?
そういえば一昨年、関西にきたときも妙に妻のことを思い出して、おかしな感じになっていた。大阪・京都は自分にとって郷愁の街なのかもしれない。
それにしてもなぜなんだろう?

あれは同棲してまだ間もない頃の話だ。
あるとき、妻とテレビを見ていたら髪の長い女優さんが出ていた。確か有森也美だったと思うのだが、何気なく「この子の長い髪はいいよね」みたいなことを彼女に言った。その当時、彼女もまた髪が長くそれを自慢にしていた。だから単純に「自分は髪の長い女は好きなんだよね」と言いたかっただけなのかもしれない。

ところが次の日の夜。会社から帰ってくるとその長い髪がばっさり切られていた。
そして「どう、いいでしょう?」と言う。どういいでしょうと言われても困ってしまうわけだが、似合っていないわけではない。というより彼女はハーフ顔で整ったキレイな顔をしているので、ロングからショートボブにしてもそれなりに似合うのである。
自分は「悪くないねぇ」ととりあえず褒めた。

この「悪くないねぇ」がどうやらいけなかったらしい。そんな言葉は褒めたうちに入らない。
でもそんな女心ってやつはあとになってわかる。彼女は何を言われてもそのときは顔に出さない。へんに意地っ張りな人間なのだ。

次の日、髪型はさらに短くなっていた。後ろを刈り上げるぐらいのショートヘア。
まったく意味がわからなかった。あのあとどうなったのだろう。やはりケンカをしたのだろうか。それともなんとなく不機嫌な態度が見え隠れする彼女を、それ以上は何も触れずにただただ見守っていただけだったかもしれない。
彼女が何に怒っているのか、もしくは何を企んでいるのか、昔からよくわからない。
いや怒っているのかさえ、本当はわからなかった。

桜ちゃんにその話をすると、「なんかわかりますー」と言う。
「でもショートにするってよほど顔に自信がないとできないですよぉ」

「うーん。あいつは美人だったからねぇ。当人も顔には自信があったと思うよ。自分はあえて褒めなかったけど」

「どうしてほめなかったんですかぁ?」

「ほっといてもまわりは美人だって言うし、彼女だってさんざん言われ慣れていたでしょ。だからそういうことであえて褒めたくはなかったんだよ。実際、パピーは顔で好きになったわけではないからねぇ」
桜ちゃんの頭の方を見つめる。
「ほらぁ、パピーはフェチだから、つむじの形とか、手の形とか、足指とか、そういうのが好きなのよ。だから顔はあまり関係なかった。もちろん彼女の顔も好きではあったけど、だけど美人だから好きだったわけじゃないよ」

「それでも褒められたいものじゃないですかぁ」

「うん、今ならわかるよ。まぁ女心というのはそういうもんなんだろうしねぇ」

そんなことを話しているうちに急にひらめくものがあった。
「………あっ、そういうことか!」
しばらく呆然として、
「アイツは髪じゃなくて、実は顔を褒めてって言いたかったんだ! 『髪型なんか関係ない。キミはじゅうぶんキレイだよ』って」

ああ、そうなのだ。アイツはいつもこちらに妙な謎かけを仕掛けてくる女なのだ。
こちらはそれにどう答えていいのかわからなくて、正解にたどりつくまでもたもたしたりする。この話だって10年以上も経っているのに、いまになってようやく彼女の真意にたどりつけた。

「今頃になって気づいたんですかぁ?」

「うん。遅いよねぇ」
桜ちゃんの方を振り返る。頭のてっぺんを見るとどうしても微笑んでしまう。
「桜ちゃんのつむじってさぁ、カミさんのつむじにそっくりなんだよね」

「ええ、つむじですかぁ?!」
桜ちゃんはおかしそうに笑う。

もうすぐ出発の時間だ。
バスターミナルまで向かう。

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東京に向かうバスの中で自分は久しぶりに逝ってしまった女のことばかり考えていた。
自分には解けていない謎がほかにも残っているのだろうか。いやきっとあるんだろう。
彼女はイタズラ好きで嫉妬深くて、そのくせ冷静でずる賢く、何食わぬ顔していつも自分のことを試していた。それは彼女なりの愛情表現で、死んで7年経ってもなおいまだにこうやってその名残りが残っている。
ずっと愛されていたんだと思った。
そうやって思えば、まだまだ彼女は自分の中に生きている。
そして自分への愛を確かめている。