命短し恋せよ乙女 その2 

店内営業のシーンは3日分あって、そのうち2日分の客になった。
最初の撮影はたぶん体のあちこちが映っていると思うんだけれど、2回目に撮ったシーンは撮影場所とは完全に離れた一角のテーブルについていたので、ほとんど映ってないと思う。

自分が一番見たかったのは渡辺監督の芝居の付け方だったんだけど、いったんエキストラになってしまうと要はセットの一部と化しているわけで、そうそうしげしげと見ているわけにもいかない。
監督の声もほとんど聞こえなかった。

それでもAV嬢と話すことはそうそうないことだから、いろんな話が聞けて結構、楽しかった。

2番目にとなりに来たコは、最初のコと同じくまだ仕事を始めてまもないそうで年は20才。キャバ嬢役ってこともあるんだろうけど髪型や顔はいまどきのギャルさん風だった。

その時の彼女の格好は「レオタード祭り」という設定だったもので、股下がきわどく切れ込んだ赤いバドガールの衣装に、肌色のパンスト。
そういうのが好きな人なら垂涎のいでたちなんだろうけど、おっちゃん基本的に乳首が透けて見えてようが、股間が凄いことになってようが、エロい言葉を発せられない限りまず欲情することがない。そういう呪われた身なので、ちょっと恥ずかしがっている彼女を相手にふつうに世間話をはじめた。

「知らない人と話すの、結構たいへんじゃない?」って聞くと、「人と話をするのは好きだ」という。
でもどこか浮かない感じ。

確かきっかけは「私はそんなにキレイじゃないから」って彼女が発した言葉からだと思う。AV嬢としてやっていくには魅力がないと弱気なことを言う。

「でもAVで人気の出るコって、めちゃくちゃキレイな人っていうよりも、君みたいな感じのコの方が人気が出ちゃったりするんだよ。男はバカだから甘え上手なフリするといちころだしね。頑張ればいっぱいお金が稼げるかもしれないよ」

「あ、私、女の人には甘えられるんですけど、男の人にはできないんですよ」

「それは何、過去に、『もう男なんてぇ!』みたいなひどい目に遭ったとか、辛い恋をしたとかそんなの?」

「えへへっ、そういうのはありますねぇ」

おっちゃん、また喋くりまくったねぇ。喋ると逆効果の時もあるけれど、彼女の目を見るかぎり、別にこちらの話を嫌がっているようにも思えなかった。
「人と話すのは好き」っていうのは本当ことなんだろう。

そのうちに「自分は、自分のことを好きになってくれる人じゃないと好きにならないんですよ」と言い出した。
「自分から好きになるってことはないんです」

「んーーー、でもさぁ、見返りを求めない『好き』って気持ちの方が純粋だよね。
そういうのを経験したことがないって・・・」

と途中まで話している間に、「ハっ」と一呼吸漏れて、

「そこなんですよねぇー!」

と吐き出すような声。
トーンも一段、上がってた。

横を振り返り、彼女の顔をマジマジと見る。
どことなく彼女から薄い膜が一枚剥がれたよう。
さっきよりも憂いのある艶っぽい表情をしている。

「実はこの仕事が終わったら、自分から告白しに行くんですぅ。はじめて見返りのない相手に言いに行くんですぅ。でも怖くてどうしようかって思ってるんですぅ」

「んんっ、何、この急展開」とこの時内心思ったんだけど、まだ長くなりそうなんで以下次号。

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