とにかくぼやこう 

  • [2013/07/23 04:07]

いつのまにか7月になっていた。

ここしばらく、撮影前日は撮影スタジオが併設されている会社に泊まることにしている。
東京の朝の電車のラッシュはハンパじゃない。揉まれてクタクタになった状態で大事な女優さんやスタッフたちと撮影をスタートするより、スタジオに宿泊し少しでも睡眠時間を取って出迎えた方がいいと思ったからだ。

AVのプロデューサーなんて仕事は、企画やキャスティングに頭を悩ませ、撮影後は資材を検討しながらどう売っていくかを考えるのが基本で、撮影当日はあんまり役に立たない。いったん現場に入ってしまえば、監督が撮りやすいように心がけたり、女優さんや男優さんの気分を乗せることだけを考える。
もっとも自分の場合は広報業務も兼ねているので、Twitterの実況を含めて広報資材の収集もしなければならない。時には取材にきたメディアの対応をしたりもする。

メーカーによっては撮影中にちょこっと顔を出して帰るなんてプロデューサーもいる。大手メーカーだと一人のプロデューサーが月に8本ぐらい抱えていたりするので、すべて最初から最後までつき合っているなんてありえない。それは広報の仕事でも一緒で、全作品に最初からつき合っているのは、自分ぐらいなものかもしれない。

もっとも会社に泊まるのは、単純に仕事が終わらない場合も少なくない。
少人数でやっているメーカーである。1人がいくつもの役を兼務しなくてはならない。何もなければできるだけ家に帰って寝ようと思うが、終電で帰ってまた会社に出てくることを考えると、ついつい面倒くさくなって通勤時間を削ってしまうのである。
会社はAVを撮るスタジオが併設されているわけだから、風呂シャワーは完備していて、もちろんベッドもある。服が汚れれば洗濯機で洗って干すこともできる。つまりは長期宿泊も可能なのである。

そんなこんなで家に帰らずにいたら、7月である。
もう今年も半分が過ぎてしまった。
これは相当やばい。

とにかく何かを書こう。
そんな感じでちょこちょこ時間があったら書くことにする。
これはブログだし、力を入れずに書いていくのが基本だものね。

あなたを縛らせて 

  • [2013/05/06 19:49]

撮影前は前日から前ノリで泊まり込むことが多いのだが、このあいだスタジオのベッドで寝たら腰を痛めてしまった。どうやら柔らかすぎて自分の体には合わなかったようだ。
その日の撮影は途中から腰がしんどくなって座っていられなくなった。
しかしマルチプルオーガズムの撮影だったので、実況ツイートもちゃんと残しておく必要がある。

マザーズはこの「男魂快楽地獄責め」シリーズがとにかくよく売れていて、キャスティングや撮影スタッフはもちろん、その後の広報活動やパケ作成までどれも気を抜くことはできない。特に今回の撮影は監督が二村さんから真咲さんにかわっての第2作目に当たっていて、各メディアに持っていくときは二村監督と真咲監督の踏襲している部分と違っている部分を、うまく説明していかなくてはいけない。

そのときに現場資料としてのこの実況ツイートはとても役に立つ。それはパッケージ作成時にも言えていて、これがあるかどうかでその後の仕事量がまったくかわってくるのだ。
実際、現在発売されている「男魂快楽地獄責め第十一巻 平山こずえ」は真咲南朋監督になってからのシリーズ第1弾ということで広報には力を入れたが、撮影当日は様々な事情があって実況ツイートができなかった。そのため自分は1から作品そのものをVで観てチェックするしかなかった。これだけで半日がかりの作業時間だ。もしも実況ツイートがあればそこから文字を拾いおこせば事足りる。そのぶん違うことに目配りをつけながら広報資料が作れるのだ。

そんなこんなで腰をやらかしてしまって、体をだましだまし休めては現場にいたので、無理がたたったかGWはほとんど動けずじまいであった。
本当はGWにまとめて文章を書こうと思っていたのだが、このボヤキに書くのが関の山って感じなのであった。
休み明けに病院に行ってこなくては。

今年に入って、マザーズで新年会をやった。
たくさんの女優さん、制作関係者が集まって大盛況。マザーズを起ち上げて一年。ずいぶん浸透してきたものだなぁと感慨深かったのだが、その出席者には大好きな女優さんの姿があった。
「最近はすっかり痴女の撮影がなくなってしまった」と言う彼女。確かに最近の彼女は男を責めるよりも、責められる姿の方が見られるようになった、しかも麻縄の緊縛姿で。

自分もライターがてらSMの作品はよく見ていたし、もともと淫語マニュアルを作ったころに知り合ったサイト仲間は素人SMサイトの人たちばかりだったこともあって、まったく知らない世界でもない。
といっても自分自身にはまったくSッ気もMッ気もない。知ってはいるものの開いている扉を外から眺める程度にすぎなかった。

そのときも結城みささんに対してSMの話をしたのは、ドグマのイベントによく出ていたので、「いつかマザーズのイベントをやるつもりだから出てくださいよ」とそんな軽口を叩きたかったのだが、ある高名な縛師さんの縄にすっかり惚れ込んで「縄酔い」したという話を聞いてるうちにちょっとうらやましくなった。

よし、んなら、縛師になってやろう!
そんで好きな女優さんをこの手で縛っちゃおう。

実は前々から思うところはあったのだ。
メーカーのプロデューサーとしては少しでも制作費を減らしたいと思うのは当然のこと。大がかりな縛りはともかく、簡単な拘束ぐらいはできるようになっておくと、そのためだけにいちいち縛師を呼ばなくてよくなるなぁと思っていた。
もちろん、なにより自分が縛った女優さんが映像に映し出されるのはちょっとした興奮でもあるだろろう。

ということで、縛師・淫語魔になろうかと思ったわけだ。
先生は身近にいっぱいいる。なにも直接教わらなくても、撮影の時に縛り方をじっと見ていればそれだけ勉強になる。

そんなこんなでただいま勉強中なのだ。
「マイ縄」も買ってしまった。
実際に縛るにはまず自分が縛られなきゃと、SMサロンに行って女王様に吊られたりして。

この緊縛マスターへの道はいずれどこかに書こうと思っているのだ。
そんでもってできれば今年中には縛れるようになりたいと。

ところで最近はとんとレビューを書けてないので、久しぶりにレビューを書こうかと思っているのだ。タートル今田監督と会って作品をもらってきたからなんだけど。
なので今度、ボヤキを書くときはこの作品のレビューを書こうかなぁと。
約束して来ちゃったもんで。

結城みさのすべて表1

そしてこれが人生で一番最初に縛った女優さん。
7671.jpg

きっかけはウィスパーボイスで淫語を言う女優さんだった 

  • [2013/04/06 14:59]

昨日、たまたま監督のビーバップみのると話す機会があったのだが、会うなり「淫語魔さん! どうしたんですかその格好は? なんかハデなのを着ているじゃないですか」と言われてしまった。
一瞬、戸惑って派手だと言われた自分の胸元をなで回す。オレンジ色のTシャツ、紺色のリンゴのデザインをプリントしたその柄は、確かに数年前の自分であればまず選ばなかったポップな服装だ。
急にこそばゆい気分になった。

「あのスーツ姿の淫語魔さんは、どこに行ってしまったんですか?」

そう、自分が最初、この業界の人たちと交流し始めたときは、ほぼスーツで出かけていった。二村さんや麻郎さんと最初に会ったのもそうだし、安田さんや遠藤さんと会ったのもそうだった。あまり記憶にはなかったが、みのるさんとの最初のときもスーツだったのかもしれない。

というよりも、その頃の自分はそんなにおしゃれな服を持っていなかった。そもそも私服にお金をかけるようなタイプではなく、特に独り身に戻ってからはよそ行きの私服など無いに等しかった。
それでもスーツだけは良いのを持っていた。いちおう大きな会社の営業職をやっていたので、ブルックスブラザースのバカ高い服を何着か持っていたのだ。

あれはもう3年前になるか、中村淳彦と会ったのもスーツ姿だった。
それは中村さんが、ある大物AV女優とインタビューする場でのことであった。
これは当人も言っていることだが、中村淳彦は売れている女優さんにそれほど関心のある人間ではない。特にインタビューする女優に関しては、できるだけその人の情報は入れないようにしているらしい。当然、作品も見ない。
当人の説明によれば、女優と距離を縮めることで共感してしまうのをなるべく避けたいということだが、自分は単に下調べすることが面倒だからなんじゃないかと疑ってもいる。

その時のインタビューイのAV女優さんは、当時ある意味、トップを取ったような超売れっ子女優で、当然ながら自分も彼女の作品は観ていた。彼女がとあるメーカーの専属を離れ、やや調子を落としている頃に、彼女のブログを見つけて妙なシンパシーをいだき、そこで更新される錯綜気味だが自分に正直な記事を読みながら、陰ながらエールを送っていたものだ。
やがてプレステージの人妻モノで大ブレークして、一気にトップ女優に登り詰めていく。その様は爽快ですらあった。

そんな彼女のインタビューの場になぜか中村さんから同席してくれと言われた。
いや正確に言うと、中村さんがその女優さんとのインタビュー仕事をほのめかしたときに、自分も同席したいと口走ってしまったからなのだが、それでもそんなことが通るはずもないだろうと、こちらも軽い気持ちで言ったにすぎない。それがなぜか、「それじゃー、明日、四ッ谷で」とか言われて、当日、仕事をなんとか切り上げて行くことになったのであった。

結果から先に言うと、自分は途中で帰されることになる。
当然だ。インタビューアの友だちだかなんだか知らないが、そんな軽い気持ちで、これから話すかもしれない立ち入った話を一般人の一ユーザーの前で話せというのだ。当然、当のその女優からはそんなことはありえないと拒否された。

「えー、あれぇー○○さん(淫語魔の本名)だったんですかぁー? えーーーー!!!」

今年に入って、その女優さんと仕事をすることになった。彼女はしばらく現役をお休みしていて今は写真を撮ったりしている。
そんな彼女に、女だけのスタッフで作る箱根一泊二日のレズ旅行の企画でのスチールカメラのオファーをした。
作品のスタッフは女性。しかも全員、AV女優。つまり完全に女優たちだけで作ったレズドキュメントである。
今月、発売される真咲南朋監督のレズ作品「密会 シークレット トリップ」がまさにそれだ。

密会

「でも、かなりの年配の人だったような覚えがありますよ」
「ああー、スーツを着ていたせいですかね? でも間違いなくあのとき、中村淳彦の横に居座っていたのは自分だったんですよ」

そんな告白に、彼女は困ったような恥ずかしそうな複雑な顔をしながらも目の奥はなんだか楽しそうだ。
こちらもやっとあの出来事を彼女に言えて感慨深かった。
あのとき、相当、気分を害してしまった女優は今では、ちゃんと自分の存在を認めた上で微笑みながら話しかけてくる。そしてそんな昔話を面白がって聞いてくれた。

「自分は、あのときのことが悔しくてね。所詮、こちらは一般人でしょ。咲ちゃんの反応は当たり前なのだけど、やっばりあっち側に行かないと女優さんとは、ちゃんと向き合えないんだなぁって思い知らされました。あのときのことがなければ、自分は今、こうしてここにいないと思いますよ。あれがまさに大きなきっかけの1つでした」

それまでの自分は正直、作り手の人とは会う気などまったくなかった。
そんなことをしたら自分の今やっている淫語レビューサイトのスタンスが妖しくなってしまう。
でも、あのときの寂しくうら悲しい気分が、業界の人とも会ってみようと思わせる気持ちにつながったのは間違いない。それからしばらくして二村さんと出会うこととなる。

そこから何年か経ち、マザーズの設立に参加し、スーツを脱ぎ、首にタオルを巻いてスウェットみたいな格好で現場に入り浸り、プロデューサーとなってからは女優さんとの面接が多くなり、ちょっとだけポップな格好をするようになった。
もちろん、この世界で自分のやりたいことはまだまだ先だ。今は遠回りだが、着実に自分のポジションを築いている最中である。

だがここにきて、自分はこちらばかりに居すぎていることも自覚している。
せっかく数年前からやり出したライター仕事もまったくできずにいる。
それを昨年の暮れに思いいたったとき、ものすごい焦燥感に見舞われた。
昔のように文章を書くことが楽しくてしょうがなかったあの頃に戻りたい。
確かに今までの仕事量では、淫語マニュアルは更新できず、ボヤキすら書くのは困難だ。だがいつまでもそれでいてはよくない。

大塚咲と仕事をしたあたりから、なんか行き着くところまで行ったような気がしてならなくなった。その頃、体調も崩してしまった。「いんごまさん、何かに取り憑かれているような顔をしていますよ」と何人かの人に言われた。
何が原因か、そんなことは自分がいちばんわかっている。

昨日、みのるさんからは「淫語魔さんも商業主義に絡め取られて、昔の淫語魔さんじゃなくなっているんじゃないですか」などといつものようにヘラヘラした口調で憎まれ口を叩かれた。
「それはみのるさん自身が悩んでいることだろう」とニヤニヤしながら返していたが、それでもあとからジワジワやってきた。
やっばり淫語魔の核となるところは持ち続けなきゃいかん。

ということで、しばらくボヤキは頑張って書いていくことにしますよ。
宣伝したいものや、とにかく言及したい人や話がいろいろあるからね。

11.19を迎えて 

  • [2012/11/19 22:56]

11月だ。マザーズの最初の販売が昨年の11月19日。DMMでのダウンロード販売からだった。
すなわち今日でマザーズが起ち上がって1周年となった。

正直、最初の頃は悪戦苦闘の連続であった。
社長に座った二村さんは監督歴は長いとはいえ、ドグマではまったく金勘定に携わってこなかった。現場サイドの話ならともかく、どういう仕組みでAVのお金が回り、どういう仕組みで流通するのかまったくわかっていない。
一緒に組んだオールグループの若き社長はまだ頼りになるものの、基本的には制作会社とプロダクション業務をやってきた人間だ。メーカー業務ははじめてといっていいわけで、やはりこちらも手探りの状態。
自分にいたっては単なる素人。AVライターはやっていたものの立場的には1ユーザーでしかない。

そんな自分たちが、無謀にもAVメーカーを起ち上げた。絶望的なまでにAVが売れないと言われている時代に、いきなり敵前上陸したようなものだ。実際、今年に入って老舗のメーカーがいくつか倒産していった。
そしてマザーズの母体でもあったベイビーエンターテイメントにもその荒波は押し寄せてきて、結果的にはメーカー業務を明け渡し、今後は制作会社として専念していくことになった。
ベイビー自体は今まで通りの作品がリリースされていくことだろうが、それにしてもメーカーのうま味がなくなってきたのも事実で、どこもかしこも本当に厳しい時代となってきている。

本当にAVは儲からない。むしろ労多くして益少なしだ。よほどAVという仕事を好きでなくては続かない状況になってきている。自分もこの一年、内側からいろいろ見回してみたが既存の売り方ではおそらくダメだろう。大きなパラダイムシフトをしないといけない。しかしその萌しはあまり見られない。特に大きなメーカーであればあるほどしがらみもあって難しいかもしれない。

その一方で自分の場合は、AVメーカーの起業に立ち会ってしまった。起業というのはどんな業種でも大変なことだ。だいたい2年間は不眠不休で働くものと覚悟しなくてはならない。

しかしそのおかげでこの1年間、実にいろいろな経験をした。
たぶん、このことをちゃんと書き残しておくべきなんだろうとは思っている。
だが、今はとにかく忙しい。こうしてブログを書いてる間にもホントはほかにやらなきゃいけない仕事が残っている。
それでも少しでも書いておこうとは思う。
特に今月はいろいろなことがあった。

それに今日はこれだけは言っておきたい。
マザーズは一年で借りていた運転資金をすべて返すことができた。
すべてはがむしゃらになって闘ってきたおかげである。
制作スタッフをはじめ、出演してくれた女優さんやプロダクションの方たち、マザーズを応援してくれた男優さんやTwitterでつながってくれたフォローワーの人たち、一生懸命、売ってくれている流通の人や、なにより店舗さん、それとこんなキワモノの作品を楽しみにして買ってくれるユーザーの方々、なんとか生き残りましたよ。
ここから先は純粋に売れたか売れないかだけを考えればいい。これからはもっと大胆な勝負もしかけていくつもりだ。

二村さんとこの仕事をはじめるにあたりいくつか確認しあったことがある。
自分たちの目的はAVで金儲けをすることではない。
「理想のAVを作る」なんて肩に力の入っちゃっているような目的でもない。
かといって、ただ仲間うちで楽しく仕事ができればいいというそんなうちわ受けの話でもない。
もっとせんぜん別の目標がある。

一年たって、やっとそのとっかかりに手が届いた。
本当にやりたかったことはむしろこれからだ。

自分は来年が楽しみで仕方が無いのである。
だからこの舞台を用意してくれた人にはただただ感謝なのだ。

その大元の仕掛け人が一般映画を作ったのだ。
ちょっとしばらくその宣伝をしようかと思うのだ。

◇銀座シネパトス
11月24日(土)~11月30日(金)
上映時間 20:45~

◇神戸映画資料館
11月24日(土)~11月30日(金)
上映時間 コチラでご確認下さい。

◇横浜ニューテアトル
12月8日(土)~12月14日(金)
上映時間 20:30~

『子宮に捧げる愛の詩』公式サイト
http://uterus-song.com/

友よ。

テムポ正しく、握手をしませう。 

  • [2012/09/30 21:11]

吉祥寺 「いせや」にて

木蘭さんは「監督失格」って、観たことあります? …観てない? ああ、話は知ってる。ああ、そうですか。
えーと、自分はあの作品を4回ぐらい観てまして、一番最初は映画館で、あとはDVDを買って観たんです。もともと自分の過去とかぶるところがあるじゃないですか。最愛の女性を亡くしてしまった点では同じというか。
でも向こうは不倫なんですけどね。
木蘭さんも不倫はだめでしたっけ? ああそう。まぁそうですよね。

それで、とにかく最初はかなり警戒して観てたんです。
その時の感想は、自分のブログにも書いてまして、このまえ、あらためて読み返してみて、まぁこうだったよなぁって思ったり。みんな騒ぎすぎっていうか。

ただ一点、どうも今ひとつピンと来ないところがあったんです。
作品の最後の方で平野さんが言うんですよね。「オレは由美香にさよならを言いたくないんだ」って。
それがどうも理解できなくって。
だって忘れる必要なんかないじゃないですか、自分が好きだった人なんですよ。そのまま彼女の思い出とともに生きていけばいいでしょ。もうすでに自分の一部と化していて、日常の中に組み込まれているはずです。
「なんで、ずっとのたうち回ってんだよ」って。「どこまでセンチメンタリストなのよ」って思っちゃったわけです。
2回目も、3回目もDVDで観たんですけど、やはりその印象は変わらない。
うまく感情移入ができないというか、平野さんと自分の考え方の違いなのかなぁって漠然と思ってしまいました。

でもこの間、また観る機会があったんですよ。Twitterでもつぶやきましたが、自分がよく行くBarで、何人かの人と。
そうしたら、今度はまったく違った。
途中からボロボロ泣けちゃってねぇ。
平野さんの寂寥がびんびん入ってきちゃったんですよ。
かっこ悪いんだけど、泣けて泣けて仕方がなかった。

でもなぜ今さらながら泣けたのか?
そのときはまだよくわかってなかったんですけど、その翌々日に二村さんとご飯を食べながらその話をしていたら、ああそういうことかって途中で気がついて、不覚にも二村さんの前で泣きそうになっちゃったんですよね。

自分がカミさんを亡くしてしまった話って、二村さんがマザーズの宣伝で淫語魔を説明するときに、一つのエピソードとして話すことがあるんです。
自分はもうすでにこの話は自分の中で整理されてしまっているし、それにどうして自分が淫語魔になったのかを理解させるのに、確かに聞いていてわかりやすい話ではある。だから気にはしてなかったというか、ホントのことですからね。まあまあ任せていたわけですよ。

ところがこの春、仕事で女性のマンガ家さんと編集の人に出会ってね。二村さんがいつものように淫語魔を紹介して、自分はいつものように当惑の表情を浮かべる彼女たちをただ眺めていた。
でもね。そのあとの二人の反応がそれまでの人たちと違ってたんですよね。
特に編集のコは、「これはいんごまさん、絶対に書くべきだよ。わすれないうちに絶対に書いて。約束して」と何度もしつこく迫られました。
そこまで強引に言う人も珍しかったんで、ちょっと書いてみるかって気になっちゃった。

自分は実はあまり彼女の遺品とか残していないんです。
一時はホントに消えてしまおうって考えていたし、ましてや文章に書いて残す気などさらさらなかった。だから記憶だけが頼りなんです。
それまでも書いたら読みたいって言ってくれた人はいましたが、その必要をまったく感じてこなかった。
だって、自分の中だけで完結してる話ですからね。

でも今回はじめて書いてみようと思ったんですよ。
そういう巡り合わせなんだろうって。たぶん1年近く二村ヒトシというクリエイターの現場に参加していたせいもあると思うんです。言い方は悪いですが、毒気に当てられたというような。
ライターの仕事を始めていたのもあるでしょう。文章にはそこそこ自信ができてきてたし、どっちにしたって過去のことです。すいすい書けるだろうとたかをくくってました。時間もかなり経過しているわけですしね。

ところがこれが思いっきり地雷だらけでした。
どこを掘っても、書いてるだけで涙とも汗ともつかないものがではじめたりして。感情のリミッターが壊れちゃって、なんだ、ぜんぜん整理がついてないじゃないかと、そんな自分にびっくりでしたよ。

書いてないときも、もうずっとフワフワしてましてね。自分が自分じゃないみたいなんです。
そんであるとき、井の頭線の駅で電車待ちしていたとき、プラットホームに入ってくる電車にすぅーと飛び込みそうになっちゃったりして。あぶねぇあぶねぇと思いながら、その日はそのあと二村さんとAVの打ち合わせがあって、でも心ここにあらずって感じでまったく役に立ちませんでした。
ああ、これをやるってことは狂気の中に入っていくことなんだなぁって。これは一人じゃ難しいぞって。
それで一端書くのをやめたんです。今の自分の最優先課題はマザーズを軌道に乗せることでしたから。

でも書くのを控えただけで、まったくやめてたわけではありません。
この夏は本当によく頭の中にいる彼女と話をしました。ことあるごとに語りかけて、ぶつぶつぶつぶつ独り言を言ってました。それは楽しかったり悲しかったり、ときには感じたことのない憤りもあって、そんな自分に驚いたりしてました。

いやー作家さんって大変なんですね。
ここまでの話、わかります?
んなら、よかった。少しとっちらかりすぎるかなぁと思って。

それで監督失格の話なんですけどね…。

戸越 「なか卯」にて

ほら、二村さん。この夏、自分、うちの奥さんのことをちょっとだけ書いてみたって話をしたことがありますよね。それでかなりおかしな気分になって行き詰まって、二村さんに相談とも愚痴ともつかないことを言っちゃった。

死は絶対でしょ。どうしたって受け入れなきゃいけない現実です。
でもだからといって、そんな簡単に受け入れられるわけではない。
自分たちはその現実を受け入れるのに苦しんで、何度も話し合って、ゆっくりとあきらめていって、最後はお互い納得しながらその時を迎えられました。すがすがしい別れだった。
でもね。ときどき思ってしまうんですよ。「なぜ?」って。
それは答えのない問いです。すでに解答は出てるはずですから。
それでもどうかするとふっと頭をかすめる。どうしてこうなったのだろうって。

その疑問を理屈と自己陶酔で無理矢理ねじ伏せて、いくつもの感情のスイッチを切りまくって、わざと卑俗な刺激で心を満たしたりして、そうやっていろんな工夫をして何重にもコーティングして、押し殺してきた。
自分のやってきたことはそういうことなのかもしれないって。
ふと思うことがあるのです。
自分はとっくに乗り越えて整理がついたことにしてたけど、まだまだだったのかもしれない。それは逝ってしまったものへの配慮であって、自分はそこに陶酔することで納得しようとしていた。

本当はね、たぶん頭にきてたんです、妻に対して。
それとそこにとどまろうとする自分に吐き気もしていた。

実際はそんな綺麗ゴトだったわけじゃない。夫婦のことは夫婦にしかわからない。
結局、美談であってほしかったのは自分だったってことです。自分こそ、それがなにより必要だった。

自分は親しくなった人を失うのが怖いんです。
愛している人には消えてほしくない。消えられるのがいちばん堪える。
ならばもう下手な人間関係は作らず、なるべく恋なんかしない方がいい。そう思うのは当然でしょう。
でもそれがここ何年間で徐々に変わってきちゃいました。また人と強く関わろうとし出した。もともとそういうヤツだったんですよ。

監督失格で、平野さんが泣くじゃないですか。のたうち回って。
「由美香にさよならをいいたくない」って言うじゃないですか。
この間、そのラストシーンを観ていて、ようやくその気持ちがわかった。

過去の思い出を表現するってことは、自分じゃないものにしてまうことなんです。
他人にも理解される状態にするってことは、自分と一体であったものが無理矢理に剥がされ、手を離れてしまうってことです。そこにできあがったものはまったく別の何かです。もう自分のものではない。

ああ、自分がやろうとしてたことはそういうことなんだと。あそこでのたうち回って苦しんでいる平野はまさに自分なんだと。これからものすごく寂しい思いをしながら地獄の底で這いつくばって書くことになるんだって。
でも書くと決めたのなら、その覚悟はしとかないといけない。

文章で表現するってことは…。
逆に大事なモノを手放さきゃならないってこと…。

………。

ふーー。

自分のものではなくしてしまう。ケリをつけてしまう。
ケリをつけなきゃいけないんだと思ったら…

…………………。

あぶねぇ、二村さんの前で泣きそうになっちゃった。

自宅 「電話」にて

まあ、今月はよくデートしたよね。ここまでいろんな人とデートしたのは初めてだと思うよ。
ああ木蘭さん? 木蘭さんは彼氏がいるからね。結構、公になっているから最初からその気があったわけじゃないよ。
彼女には前々からものすごく興味があって、パピーの方から誘ったらなぜか乗って来てくれたんだ。
もちろん美人と一緒に飲むのは気持ちいいしね。
いんごまはフェロモンがないからまったく無警戒だったのかもしれない。

いや自分でもわかるよ。まったくフェロモンがないよね。
ある人に「フェロモンを出すためにたくさんの人とデートしたら」とアドバイスされたことがあるんだけど、木蘭さんにそのことを言ったら、大笑いされて「いんごまさんはそこで勝負するひとじゃないでしょ」とか言われちゃった。

うん、木蘭さんがサシ飲みする気になったのは、どうやらブログを読んでくれてたからなんだ。「淫語魔の日常」とか「読書」とかを読んでて、それでどういう人なのかなぁって興味があったらしい。
そういう意味じゃ、両思いではあるよね。

モテということでいうと、いんごまはちょっとぶっちゃけすぎなんで、本当にモテたいなら、あまりしゃべらず謎があった方がいいとも言われたな。
「いんごまさんとはガールトークみたいにリラックスして話せちゃうからあまりドキドキしない」って言われちゃった。

んん? そうねー。結構、へたを打っているしね。
最近は妙に惚れっぽいだろ。「この人かも!」って思った人にはすぐ「付き合って」とかいって振られちゃうし、なんだかよくわからないよね、これじゃ。
なんともには「淫語魔さん、恋愛の仕方を忘れたんですか?」とか笑われちゃってるからね。
恋愛するにしても、いろいろ問題はあるよね。

いや、毎年さ、9月は駄目な月なんだよ。
去年はAVメーカーをやりだしたでしょ、その前は文学賞騒ぎでしょ。それでなんとかしのげたけど、その前まではいつもどうやりすごそうかって感じだったよ。

うん、亡くなったのが9月だったんだ。前に言わなかったっけ?

年を取ると人ってさ、そうやって何かを回避しながら生きていったりするのさ。
まあでもそれもいい加減、終わりにしないとね。
今年はそういう意味で言うといつもと違って楽しい9月だったよ。
色ボケキャラを通して過ごせたからね。それにいろんな女性とデートすると勉強になるね。今思うとデートした女性はみんなイイ女だったなぁ。

それと、やっぱりあらためて書こうと思った。
うん、カミさんのこと。
それは決着をつけるべきだと。

「喪失することが怖い」って木蘭さんに言ったら「まさにそのことを書くべきだ」って言われたよ。

ん、「ソーシツ」っていうのは、何かを失うこと。んん、そうそう、そういう意味。
喪失感ね、そうそうそう。使うでしょ。

木蘭さんは大笑いするときの顔が魅力的なんだけど、そのときもまたもや大笑いして「まず今、いんごまさんが恋人と危機的状況になっていて、そこから過去の奥様の話に戻るといいんじゃないかなぁ」なんてアドバイスをくれてさ。「喪失するのが怖いってことを過去に求めて説明するようにすると、読んでいる方は読みやすくなる」ってさ。んなことを目をキラキラさせていうんだ。
「それじゃあ、やっぱりまず自分、恋人をつくらないといけないですよね」って言ったら、そこでまた大笑いして「そうですよね」って涼しげな顔して応えるんだよねぇ。

そう、ねぇ、ステキな人でしょ。人の話をよく理解するし、筋は通っているし、魅力的だし、美人だし、ざーんねんでならんのは彼氏がいることだなぁ。

木蘭さんはしょうがないけど、もちろん恋人をつくる気まんまんよ。
まあ木蘭さんには服装についてもいろいろダメ出しされて、結構いろいろ細かいこと言われたので頑張ることにするよ。

えっ、何、言われたかって?

Tシャツ着るなら、プリント柄。もしくは襟付きを着なさいって。
敗因はだらしない感じがだめらしい。ほんのちょっとしたことなんだって。
なに、わかる? だったら早くいいなよ。ふふふ。

え? わかってるよー、巨乳で美人のお母さんがいいんでしょ。
まぁ、考えとく。
でもまずは「恋はあせらず」っていうじゃない。
知らない? シュープリームス。
そんな曲があるのよ。
アイツ、機嫌がいいとよく鼻歌を歌ってたなぁって。